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Vol.08 山田 裕貴さん

​(2024.12.10 掲載)

しっぷろインタビュー8人目は、埼玉県でピアスタッフとして働く山田さんです。インタビュー内容として主に次の6点についてお聞かせくださいました。

①働くようになった経緯、②いまどのように働いているか、③やりがい、④大事にしていること、⑤働き方の変化、⑥好きな言葉やモットー

是非お読みください^^

年代:30代     

地域:埼玉県

勤務先:所沢市保健センター
    健康管理課 
    こころの健康支援室

いて何年目か:4年目

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山田さん、この度はしっぷろのインタビューにご協力いただき、ありがとうございます!

早速お伺いしたいのですが、山田さんがピアスタッフとして働くようになったのは、どのような経緯だったのでしょうか。

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山田さん

デイケア施設での経験を源流とし、大学等での社会福祉や精神保健福祉についての学びを経て、ピアサポートに関する研修を受講して、現在ピアサポートスタッフとして働いています。

まだ私が通院先のデイケア施設に所属していた頃に、そこで経験した何気ない雑談や仲間と共に時間を過ごすといったことなどが、私がリカバリーを少しずつ進み始めた原点のように振り返ります。そのような経験から、「自身の経験を活かせれば…」「活かして、同じような難しさを抱える人と共に在れれば…」と感じるようになりました。

そのような精神科でのリハビリテーションを終えられそうな頃、大学受験を志しました。その動機として、当時はピアサポートという領域や働き方をほとんど知らなかったため、まず資格の取得を目指したこと、そして、かつて断念した大学受験に再び挑みたいということがありました。いざという時の事などを考慮し、当時の通院先と自宅、そして通学することになる大学とのアクセスのバランスを考え受験先を選び、幸いにも、いくつかの大学に合格できました。そして、今一度自身のやりたいことを振り返り、福祉という分野を学ぶことにしました。合格できた学校のなかでも、特に社会福祉やピアサポートについて学べそうだと感じたこともあり、大正大学に進学することにしました。

大学等での社会福祉や精神保健福祉の学びを通じて、ピアサポートという領域や働き方にも触れ、体調との関係もあり資格の取得をいったん置いておくことにしました。まずは卒業、そしてピアサポートという働き方を目指すという方向にかじを切り、大学院への進学、ピアサポート専門員の研修や、TICPOC Dコース(※1)といったピアサポートに関する研修コースの受講を経て、そういったご縁を通じて現在の職に就いています

※1…TICPOCとは:東京大学が実施している精神領域をフィールドとしたピアサポートワーカー研修プログラムのこと。こちらの研修は講座と実習などを行い、研修期間は1年間とのこと。
※詳しくは右のURLからご確認できます https://co-production-training.net/ 

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まずはご自身のリカバリーの原点といえる体験があり、そこから「自身の経験を活かしたい」という思いにつながり、大学受験、大学院への進学、ピアサポートに関する研修へ、とピアサポートを深められていったのですね。現在は所沢市保健センターのこころの健康支援室でご勤務と伺いました。多くのピアスタッフが医療や福祉の分野で働かれていることを考えると、行政の分野での仕事をされる山田さんの働き方は稀であるとも言えると思います。今どのように働かれているか、教えて頂けますか?

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山田さん

ピアサポートスタッフとしては、ワーカーをはじめとした専門職(時に違う部署の職員とも連携し)と、来庁された当事者の方々との面談や訪問への同席、地域の事業所への訪問、ところざわ経験専門家養成講座(※2)など経験専門家に関する事業の運営などを中心として、事務補助業務も行っていますね。

ところざわ経験専門家養成講座について軽くお話をします。「経験専門家」って耳慣れない言葉かもしれません。とてもシンプルに言えば経験専門家(expert by experience)という、海外でしばしば用いられている立場性を担う人たちを養成する取り組みで、「誰もが自分自身の経験の専門家」という考え方を大切にして、メンタルヘルス領域での各自の困難などの経験をもとに活動を担える人材を養成するものです。この取り組みの中では、「語ること」「聴くこと」を大切にしています。

 

私も職員ではありますが受講生としての参加も経験しています。修了された方々は、ピアサポートスタッフや、経験の語りのような発信など様々に働いたり活動したりされています。また令和5年度からはピアサポートグループの事業も始まっています。

※2…ところざわ経験専門家養成講座とは:所沢市で開かれている経験専門家を養成する講座。そもそも経験専門家とは、何らかの慢性疾患や障害をもつ個人とその人固有の「経験」に対する敬意を込めた呼び名で、自分自身の経験や、経験に基づく考えや意見を社会貢献のために語ることを主眼としている。経験専門家を養成する講座がオープンダイアローグ発祥の地であるフィンランドで開かれており、日本では山田さんが勤務する所沢市保健センターで2021年に開始された。1クール全10回の講座(1講座2時間)で行われている。

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行政の様々な業務とともに、経験専門家養成講座やピアサポートグループなどの新規事業に関わっていらっしゃるんですね!山田さんのこれまでの経験や学びが行政の場面で大いに生かされているのではと思います。山田さんにとって、今の仕事やピアサポーターとしてのやりがいを教えて頂けますか。

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山田さん

地域の事業所へ訪問した時の利用者の方々や、経験専門家養成講座を修了した経験専門家の方々とのやり取りでは「まさにピアサポート」といったことを感じさせてもらっています。

例えば、利用者の方々のほうから、「最近体調大丈夫ですか?」、「お仕事忙しいですか?」など心配していただくこともあれば、「また来てください!」と声をかけていただくこともあります。他方、「(以前私はある程度時間をかけて、電車を乗り継いで出勤していることを少し話したことがあるという経緯から)出勤大変ですよね」と気にかけていただいたこともあります。

もしかしたら、考え方によっては「あまり心配してもらってばかりなのは職員としてはどうなのか?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。私自身「心配かけてしまってばかり」と思う節もあります。とは言いつつも、そこは、恐れながら素直にピアサポートを実感させてもらっています。というのも、そこには「お互いさま」の精神があると感じているからです。

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もちろん、面談などを通じて、関わった相手が少しずつ元気になっていったり、新たなことに挑戦できていったり、といった様子を、私よりも長くかかわっている職員の目を通じて知らせてもらうことにも心の温まるような思いを感じます。ただ、併せて、「お互いさま」を実感できるような、「こちらばかりが相手を心配したり働きかけたりするわけではない」ことを実感できている業務には大変なやりがいを感じています。

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「お互いさま」、とても素敵な言葉ですね。ご自身が関わることで相手が元気になってらっしゃるのを喜びながら、自分自身も元気をもらっている山田さんの姿が目に浮かびます。

行政で働かれているので、様々な背景の方が訪れるのでは、と思います。その中で、山田さんが対人支援をするときに大事にされていることはどのようなことでしょうか。

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山田さん

やはり、最も大事にしていることの一つは「お互いさま」という在りようだと思います。支えるー支えられるという関係を一方的なものでなくするために、時には支え、またある時は支えられ、と考え続けることが一方通行な関係性にとどまらないために大切なことと考えています。とはいっても、自分自身振り返ってみると支えられてばかりなんじゃないかとも思ってしまいますが。(汗)

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でも、それでもいいのではないかとも思います。もちろん100%常に支えてもらっているばかりでは「ちょっと…」ですが、「支えること」と「支えられること」には「支え手」と「支えられ手」どちらの立場にとってもとても意味のあることと考えています。ですので、頼り、頼られる、そういった人であることをこれからも目指していきたいと思っています。

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りがとうございます!一方的な関係に留まらないよう、「お互いさま」であることを思いながら支援されているのですね。山田さんはピアサポートを始めて4年目になると伺いました。経験を重ねる中でご自身の働き方に変化してきたことはありますでしょうか。

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山田さん

少し率直に思うところをつづってみたいと思います。あくまで私見です。

 

「重ねる」というにはまだまだおこがましいところですが、「以前と違ってきている」という感覚としては、ピアサポートを担うスタッフとして働いて芽生えた体感で、誰かから「いいね」を言われるよりも、誰かに「いいね」を言う機会が増えている立場になっている、というものがあります。

   

私は「お互いさま論者」なので「どちらか一方にのみ」ということにはならないのですが、要するに、それはピアとして少しずつ経験が豊かになっていっているということかもしれないと思っています。

ただ、一般的に経験が豊かになるということは、いわゆる先輩やメンター、あるいはシニアと呼ばれるような立場になっていくということだと考えます。そういう立場になるって敢えて言えば「人より前を歩く」、あるいは「(責任を伴って)人の上に立つ」立場になることだとも思います。

 

つまりパワーバランスがちょっぴり偏っていくことでもあると思います。ところが一方、ピアサポートって対等さを大切な価値の一つとする領域でもあり、そうなるとこのバランスの偏りは捨て置けないですよねぇ…。すなわち、この場合に関してはピアというあり方って「自然とそうなっていくもの」に抗う営みでもあるのかな、と思うようになってきています。そう考えると、実のところ私が最近抱えている葛藤の正体ってこれなのかな、とか思ったりしています。ちょっと質問から逸れてしまったでしょうか(汗)

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なるほど…。経験が豊かになることで「責任をもち、人の上に立つ」立場になる。しかし、それはピアサポートの対等性が保たれない事態が生じうる…。それは確かに葛藤を生じてしまいそうです。山田さんのおっしゃるように、いかにそこを意識しながら働くか、という点がとても重要と感じました。ピアサポーターとして働く方々と、一度その点を話し合ってみたい、とも思いました。

大事な論点をありがとうございます。それでは最後に、山田さんの好きな言葉を教えて頂けますか。

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山田さん

好きな言葉やモットーと言えるものは、実のところ、とてもあって迷います…。

ただ、振り返ってみるに、『スティール・ボール・ラン』という作品があるのですが、その劇中で「一番の近道は遠回りだった」「遠回りこそが最短の道だった」みたいなセリフがあって、この言葉はとても私に響いていると感じています。実際のところ自身のこれまでを省みても本当にその通りだと感じることはたくさんあります。障害を得てから、楽しいことも、しんどいことも、いろいろと経験しましたが、結局今自分がしたいと願ってきたことをできていると感じています。

時間も労力もかけて、遠く遠く回ったけれどたどり着けた、遠く回ったからこそ、今にたどり着けたと感じています。

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山田さん、素敵な言葉をありがとうございます。山田さんがピアサポーターの道を歩まれたきっかけや、今どのように利用者さんに向き合われているのかを伺った今、「遠くに回ったからこそ、たどり着けた」という言葉がとても胸に響きます。

 

山田さんの在り方や温かな笑顔は来所される方を励まし、勇気づけてくれているのでは、と思いました。今日はインタビューに答えて下さり、本当にありがとうございました!

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